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第1回 広島平和記念資料館運営会議要旨

1 日時 

令和 2 年(2020 年)2 月 21 日(金)15:00~17:00

 

2 場所

平和記念資料館東館地下 1 階会議室(2)  


3 出席委員(7 名)     

大井委員長、久保田委員、久留島委員、高妻委員、ファン・デル・ドゥース委員、小泉 委員、今中委員

  
4 事務局(10 名)

平和記念資料館 滝川館長、加藤副館長、浜岡副館長、宇多田学芸課課長補佐 落葉学芸員、植野学芸員、小山学芸員、土肥学芸員

平和文化センター総務課 大杉総務部参事

市平和推進課被爆体験継承担当 柿田主査  


5 議題等

(1)運営会議について

(2)資料の保存について

(3)本館展示の遺品等の入替え

  
6 公開、非公開の別   

公開  


7 傍聴者   

報道機関 10 社

  
8 会議資料名

第1回広島平和記念資料館運営会議次第

資料1 広島平和記念資料館運営会議設置要綱

資料2 広島平和記念資料館運営会議委員名簿

資料3 当館の資料保存について

資料4 本館リニューアルから現在までの資料入替えについて

資料5 今後の展示資料の入替予定案  


9 会議の要旨  
《開会》

【議題⑴ 運営会議について】 事務局 資料1「広島平和記念資料館運営会議設置要綱」について説明 
  
【委員紹介】

事務局

資料2「広島平和記念資料館運営会議委員名簿」により各委員紹介

   
事務局

設置要綱第4条第1項に基づき広島平和文化センター松井会長の指名 で委員長として大井委員を指名。

設置要綱第5条第1項に基づき大井委員長が副委員長として久留島委員を指名。

  
大井委員長

それではお手元の次第にそって議事を進めたい。 

議題 1「運営会議について」。

昨年 4 月に完了した資料館の展示リニューアルは、学識経験者等に よる「展示検討会議」で、約 9 年間にわたり展示手法や展示内容など について、議論をしながら進めてきた。

そして、昨年 3 月開催の最終会議において、リニューアル後の資料館の運営などについて、意見交換し、展示検討会議として、いくつか の提言を残している。

ついては、展示検討会議の委員長であった今中委員から、提言についてご報告をいただくとともに、資料館リニューアルに対する展示検討会議委員長としての想いなどについて伺いたいと思う。  


今中委員

検討会議は25 回に及び、最終回に資料館の運営に関して提言した。提言は今後の資料館運営に係る諮問機関として研究者、博物館及び教育関係者など有識者の助言を受けることができる会議を設ける、という内容であった。今日発足した運営会議はこの提言に沿ったものであり、提言を生かして頂いたことに感謝申し上げたい。

(提言の概要)

提言に際しては特に意を用いていただきたい事柄を 3 点挙げる。1 点目は展示の基本方針として、遺品・被爆資料・写真・被爆者の描い た原爆の絵など実物を重視した展示とすること。2 点目は常設展示の 更新で、被爆資料の保存及び収蔵資料の活用の観点からタイムリーに 展示の入替え・更新を図っていくこと。3 点目は本館ギャラリー、東 館 1 階エントランスなど来館者の心情や感情の整理に配慮するため に設けた空間を保全することである。

1 点目の展示の基本方針は資料館の運営理念でもある。 2 点目は「永遠の被爆の語り部」ともいえる平和記念資料館が存続するための必須の要件である。3 点目は意味のある空間であることを明確にしておかないと、過去にあったような異物、資料館にそぐわない場違いな物品という意味あいだが、こうしたものが持ち込まれないためにも歯止めをかけておこうという趣旨である。

提言は以上の通りで、資料館のリニューアルについて展示検討会議の委員長としての想いがあれば、ということであったので一言だけ述べたい。

(リニューアルについての展示検討会議委員長としての想い) 

会議に先立ち資料館を見学した。昨年末から 3 回目の見学で、今日もコロナウイルスの感染の問題の割には外国人も含めてそれなりの入館者が入っている。本館の「魂の叫び」のコーナーではハンカチで涙をぬぐっておられるご婦人も見られた。やはり訴える力があると実 感している。会議は足かけ 9 年に及び、行きつ戻りつの議論もあったが、長いスパンで見て、議論を尽くしたことはそれなりに良かったと自負している。 

この間、印象に残る出来事がいくつかあった。一例だけ述べさせていただきます。2015 年に山口市のきらら浜で第 23 回世界スカウトジャンボリー大会、152 か国から 38,000 人のボーイ、ガールスカウトが参加して、この中で資料館見学のためにピースプログラムを組んでいただいた。世界の若者たちが資料館に押し寄せた、という感じであった。6 日間にわたって約 27,000 人が貸し切りバスに分乗してやってきた。見学の後、その都度国際会議場で反省会というか意見発表会を開いた。傍聴席でたまたま隣り合った米国サンフランシスコからのボーイスカウトに、私が展示検討委員会の委員をしていることを伝え、「どうだった?」と問いかけると、「テリブル!ノーモアヒロシマ!」という非常に簡潔に、一言で言い切っていた。恐ろしい出来事だ、広島の惨禍を繰り返してはならないという思いをストレートに受け止めてくれたのだと思い、少し胸が熱くなった。彼の真剣な眼差しが今も脳裏に焼き付いている。彼はこのピースプログラムに参加しようか迷ったが、参加して本当に良かったと言っていた。彼はおそらくこの原爆の残虐性とか非人道性を目の当たりにしたと思う。この 27,000 人もの外国の、将来おそらくそれぞれの国で指導者層になり うるであろう若者が広島のことをしっかり認識して帰ってくれたんだろうと思う。それぞれの母国で平和のメッセンジャーとして核兵器 廃絶に向かって力を尽くしてくれると信じている。 

広島の原爆被爆は未曾有の惨禍だが、惨禍や災難はその惨禍が大きいほどその集団に目が行きがちである。しかしその惨禍で苦しむのは結局個々人である。「魂の叫び」のコーナーでは個々人に焦点をあわせており、それによって見学者はこれがもしも我が身に起きたことなら、と置き換えて見てもらえることだろうと思う。私が目の当たりにしたご婦人の涙もそれを物語っていたのかと思う。

提言に関して、「資料館は永遠の語り部」だと申し上げた。広島の 被爆者の平均年齢は 85 歳を超えた。この方たちがなお語り部を務めるにしても、おのずと限界がくる。資料館はそれに代わる「永遠の語り部」だと思っている。

核兵器による大量無差別の殺戮の不条理を時代、国籍、文化の違いを超えて伝え続ける資料館への入館者が増えるように願っている。今 日も外国人の来館者が目立った。統計上も来館者の 3 分の1は外国人 である。資料館の重責を実感し、先日の新聞のオピニオン欄にも「原爆症訴訟の戦い」という見出しの記事が載っていた。記事には「判決文を書く前に資料館に行ってきました」という裁判官の言葉が添えてあり、資料館には核兵器廃絶と被爆者問題の原点があると確信した。  

 

大井委員長

随分長い間わたくしも副委員長としてご一緒させていただいた。 色々な議論をうまくとりまとめていただき、本当に感謝したい。

では先程の運営会議の全体のことについて、何か御意見御質問等あれば伺いたい。  

 

実は私、今回のリニューアルの前に、資料館の部分的なリニューアルを担当する業者選定のコンペの審査の一員として参加したことがある。その当時のリニューアルの考え方、進め方に比べると随分長時 間かけて、9 年間という時間をかけて私もいろいろな意味で資料館についての勉強と展示のあり方をどうやるべきかを含めて随分勉強させていただいた。広島市立大学の芸術学部の大学院生たちにも一緒に資料館の空間についての研究や案を出してもらったりした。時間をかけてしっかり展示検討会議で議論を詰めてきたかいがあったのではないかと思う。

ただまたいろんなことが問題点として出てきたことも事実である。 今回のリニューアルがまだまだ 100%とは言えない段階であるが、随分時間をかけたかいがあったと思う。

それとやはりこの会議の中でいろいろな分野の先生方と一緒に考えを詰めていきたいことが多々ある。また次のリニューアルがいつになるかはわからないが、少しずつこの会議で問題を解消し、提案、提言ができればと思う。

 

何か他にご意見があれば、特にこの運営会議の中身についてはまだ かなり大枠で少し詰めていく必要があると思うので、まずは 1 回目と してできるだけ広範囲にご意見をいただきたい。全体の運営会議の内容についてのご意見がなければ、具体的な話から内容を詰めながら運営会議についてもご意見をいただくような方法で進めていきたい。 


【議題⑵ 資料の保存について】

事務局

資料3「当館の資料保存について」を基に、現在の資料館の資料保存について説明。

まず大きく分けると収蔵・展示環境の保全、そしてそれぞれの資料の劣化対策という二つの面から進めている。資料の劣化対策や修繕が主になると思われがちだが、一度壊れてしまった資料はなかなか元に戻せないということが背景にある。その典型的な例が数年前に懐中時計の針が折れてしまったという大きな事件であった。そうしたことから当館では収蔵・展示環境の保全に力を注いでおり、当館の学芸員が 手間をかけながら取り組んでいる。

最初に展示室と収蔵庫の温湿度の調査と管理について、データロガーを設置して実施している。最近ではブルートゥースを使ったデータロガーも導入している。一日中計測をしていると、時々非常に温湿度がはね上がる時があるので、その原因を探っている。例えば大きな換気をした時や入場者数が 1 時間に千人以上ある場合は大きく温湿度が上がることなどが調査の結果、わかってきた。

また、定期的に展示室の環境には良くない影響を与えるといわれているガス状の汚染物質の調査、例えばアンモニアやホルムアルデヒド、様々な有機酸などの計測を行っている。

次は、一定期間館内に粘着トラップを設置し害虫調査を実施している。湿気を好むチャタテムシや紙魚、ゴキブリなどが見つかっている。 
また、リニューアルオープン後は本館露出展示の清掃を毎週木曜の閉館後に職員が行っている。日々の清掃業務は清掃業者に依頼しているが、展示の部分は学芸員が管理するということで、展示物に積もった埃を取り除く清掃を行っている。資料に掲載している写真は地元の高校生にボランティアでこの清掃に参加してもらっている様子である。これはまだ試行的にやっている取り組みであり制度化はしていないが、ねらいとしてはこの若い子供たちがいずれ大人になった時にこの資料館を他人事でなく自分たちのものとして守っていかなければならないのだという、自分たちも参加するという機運を作っていこうという思いがある。

次に資料の劣化対策として、資料の保存処理、仏像や三輪車、弁当箱など当館を象徴するような資料については樹脂による保存処理をした上で展示している。ガラス片の突き刺さった土壁も従来本館で展示していたのだが、高妻委員に相談し表面だけを残して保存処理をした上で現在展示している。またその過程で取り除いた土壁の中に 16 個のガラス片があることが判明したため、今度の新着資料展で紹介する予定である。

次にレプリカの製作について。現在東館 1 階でレプリカをテーマとした展示をしている。レプリカそのものと元の資料の現物の比較、またこのレプリカを作る職人の方々の意見や製作過程で感じた感想も あわせて紹介している。今まで 30 点ほどのレプリカを当館では製作 してきたが、国内外での原爆展で展示する際にこれらのレプリカを使用している。また、本館で展示している韓国の被爆者の軍隊手帳については現物を収蔵している韓国の博物館の承諾を得てレプリカを作り当館でそれを展示している。そして、本館で展示している遺書や手紙といった紙資料については、昨年の 8 月 6 日の後に複製物に代えている。照明による資料の劣化、特に昔の紙に書かれたインクの色が次第に薄くなることを避けるために、レプリカに置き換えて展示している。実物重視の展示を続けるために実物を保存していく必要もあるため、レプリカで置き換えている例があることを紹介させていただいた。保存と展示の問題は全国の博物館においても起こる、非常に矛盾した、難しい問題ではあるが、当館でも同様の課題がある。

また、資料のデジタルアーカイブ化も進めている。以前、16 ミリ フィルムが入手できた時はデジタルリマスター化を行っており、市民が描いた原爆の絵は NHK から提案があり当館と共同で 8K のカメラで 2017 年に撮影し、高画質の静止画像データを作成している。そのため、元の原画の色が残っている間にそれに近い色で再現でき、拡大して展示に用いることができている。

  
大井委員長

今回のリニューアルに向けた検討会議で議論されたコンセプトの中でも実物重視ということが言われ、そうなると資料館側の資料の保存や修復といったあり方の問題が起こってくる。今回のリニューアルを契機にそうした考え方、あり方を強化し検討していることが重要になってきた。 
ただ今の「当館の資料の保存について」に関する事務局の説明に対して、それぞれのご専門の立場から御質問・御意見等あればお願いしたい。

   
高妻委員

一つは本館露出展示の清掃に高校生が加わることは非常に良い試みだが、一方で学芸員の負担も非常に大きいと思うので、その点も考えてもらいたい。資料を残すことは実際には人が残すことになるので、機械頼みにならないように、例えば停電で空調が皆止まってしまう、といった場合もあるので、そうしたことも想定しながら日頃の管理体制についても考えてもらいたい。   

 

ファン・デル・ドゥース委員 
私は記憶学の観点から、どのようにして、被害の実相と被爆者の思いを市民参画型で伝えていくことができるかを研究しているが、やはり現物があり、それに触れることができるのは素晴らしいと思う。以前館内で、小さい子供が焼けたガラスの瓶を触りながら、親と話している様子を見て、体験的な学びという資料館ならではの役割を感じた。と同時にどうしても残さなければならない資料の保存も考える必要があり、私たちがいなくなっても資料があれば、そこから新たな継承の芽が生まれるので、何を現物で残し、何を複製で国内外に送り、広く伝えていくのか、という判断が大事だと思う。 
見たり、触れたりして初めて伝わる事柄もあるので、温湿度といった展示環境を十分整えられないような場所、たとえば海外の展示などで、レプリカは、なくてはならない存在だと思う。 
また、今回のレプリカ展で感動したのは、製作者が被爆の実相について学んだこと、企画・製作上の苦労や思い、レプリカで表せないこととは何か、など詳しい説明が添えられていたこと。それは、被爆者の方々が証言で、あの日のにおい、音、うめき声などについては、どうしても表すことができないとおっしゃるように、レプリカ製作の難しさや展示の意図を示すのが大切だろう。レプリカとともにそのような説明を海外にも送れば、資料館としての誠意が、よく伝わると思う。

   
大井委員長

レプリカを作る際もどういう気持ち、心で作っていくか、その過程や方法についても検討していく必要があり、また資料館としてのレプリカのあり方、レプリカに対する基本的な考え方を少し整理する必要があるかと思う。   

 

久留島委員

私も今回のレプリカ展を見て感銘を受けた。というのも私が勤めている歴博はレプリカを尊重する(実物展示を原則とはするが、レプリカでなければできない展示もする)博物館で、実際に展示の 4 割以上がレプリカである。37 年前に開館した時には、本物がないではないか、レプリカならわざわざ見に行く必要がないという批判をずいぶん受けた。ただ、どうしても実物資料の保存は大きな問題であり、たとえば絵画資料などは 4 週間程度の展示が限界なので、どうしてもレプリカが必要になるのである。しかも、館にとっては、重要な資料であればあるほど、精巧なレプリカを作ることで常設展示のストーリーを壊さないですむというメリットがある。また、「現物は現地保存主義」という考え方が浸透し始めており、現在ではその考え方は一般的になってきている。現地に残っていることに価値がある、現地で残すことができるものは現地で残すという考え方がレプリカを用いる前提としてある。 
また、レプリカを作る過程そのものが重要であり、精巧なものを作れば作るほど、その過程で、どんな素材でできているのか、どんな色なのか、どう表現するのかなどが、手仕事になり、実はそのためにお金も時間もかかる。それでも、その過程でわたしたちにわかることもたくさんあり、素材、色、匂いまでもわかってくる。その過程を記録に残すことが本当は重要で、レプリカを作る過程で何が分かったのかが非常に大事になってくる。単にレプリカ製作の作業を「感想」で示すだけでなく、記録を取り、レプリカとともに来館者にその製作過程を伝えるということをしてもよいのではないか。レプリカの製作を通じて、レプリカは本物の持つ性質を実は受け継いでいる(示すことができる)ということを証明できると考える。 
次に、原爆による被災資料の持つ意味について、近年の自然災害などによる被災資料の事例でいうと、例えば津波で被災したパトカーを保存するという例に見られるように、それまでは保存するべきものとは思われていなかったものも、被災したことによって別の意味が付け加わり、保存の対象となる。被災した資料は膨大なので、現代史に関する資料は残らないのが通例だが、被災した資料は被災したという歴史的な重みが加わるので、それを実物で残すことが重要である。選択しながら残すことの意義は重い。そして実物を残すことと、その実物から精巧なレプリカを作ることで、両者をうまくミックスしながら博物館として利用することが大事だと考える。

   
大井委員長

最近の災害等でこちらが思いもよらなかったことも起こってきているので、資料館自体のレプリカの考え方についても基本的なところからその骨組みをきちんと作っていくべきであろうと改めて思う。  

 

久保田委員

4 つある。 
まず一つは、環境調査などの資料保存に向けた事業は素晴らしいが、調査結果はまとめているのか、またその結果をふまえた取り組み、トピックなどがこれまでにあったら教えて欲しい。 
もう一つは露出展示の清掃に高校生も参加してもらうことは教育的な効果の面からとても良いことと思う反面、学芸員等職員の負担も考える必要があり、「良いこと」だという風潮で続けることは学芸員の負担が大きいのではないか。代案は今すぐ考えつかないが、続ける ためには学芸員の待遇やコストの面を踏まえた上でやっていく、無理ならばどうすれば実現可能か、という検討をした方がよいのではないか。 
また、レプリカの製作自体が研究になるのではないか。可能であればレプリカの近くにその製作過程やわかったことを展示すれば、見る人の心にさらに訴えるものになると思う。 
この資料館は非常にバラエティに富んだ資料を大量に所蔵しているので、モノ(資料の保存と整理、活用)・ハコ(館内の資料保存環境および展示計画)・カネ(資料保全や展示にかかる経費確保および分配)の問題についてはきちんと考えて議論を建設的に発展させてもらいたい。


今中委員

展示検討会議では実物に限定するものではなく、あくまでも実物「重視」ということであった。レプリカで代用した方がよいものについてはその方がよく、その点では許容できるものと思う。  

 

事務局

久保田委員からの最初の質問に対して、展示室・収蔵庫の温湿度管理は計測した値に応じて例えば調湿剤の種類を変えるなどの入れ替えをして対応している。また、害虫の侵入経路の特定と侵入防止対策、例えば物の搬入口にカメムシの侵入を防ぐ箒状の害虫侵入防止用具を取り付けるなどの対応を行っている。また、入館者が増えると展示室のアンモニアや二酸化炭素の数値が上がるので、有効な対策は今の時点ではなく対応しきれない面もあるのだが、展示ケースや収蔵庫にガスの吸着シートを入れたり、展示室や収蔵庫の換気を行うことは気を付けている。 
 当館も展示資料も収蔵資料も非常に多く、リニューアル前の初期費用とは異なり、リニューアル後のランニングコストについては予算の獲得の面で苦労をしているが、予算を維持してそうした取り組みを続けていきたい。  

 

小泉委員

当館を所管する立場から申し上げると、資料の保存は一般論として重要だということは認識していたが、今日の議論で皆様のお話をうかがってその点を多角的に考える必要を改めて感じた。この資料館の被爆の実相を伝える発信力と多くの方がここに見に来たいという求心力については非常に大きなものがあるので、今中委員の仰る「永遠の被爆の語り部」としての役割が当館にあることを改めて実感した。  

 

大井委員長

展示検討会議ではリニューアルを優先したため資料の保存や修復についてはあまり話題にあがらなかったが、やはり当然問題としてこうしたことが起こることも想定されたわけで、そうした意味では第一回のこの会議で今回この点を取り上げることは非常に意義があると思う。  

 

高妻委員

大きな問題が一つあり、昨秋の台風で川崎市市民ミュージアムの地下収蔵庫が大きな水没被害を受けた。この館の収蔵庫も地下にあることから同じ状況にあるため、昨年の西日本豪雨の災害は免れたにしても今後のことはわからない。いきなり収蔵庫を新設するといったことはすぐにはできないにしても、水が入った時の排水方法など、手前でできるようなこと、急場しのぎでも準備できることは色々あるはずなので、その上で中長期的な計画として収蔵庫の問題を考えていくことが重要なのではないか。特にこの資料館の資料は唯一無二の資料でありこれが失われてしまってはどうしようもないので、ぜひ考えていただきたい。  

 

大井委員長

収蔵庫の問題はできるだけ早いうちに考えて、お 金の問題もあるだろうが早めに手を打った方がよいのではないか。長期的な課題として常に出しておいた方がよいように思う。  

 

久留島委員

私も川崎市民ミュージアムの被災資料レスキューで、収蔵庫に入る機会があったが、川崎の場合は電気系統の故障のため、しかも大雨の後しばらく気温の高い日が続いたこともあって、収蔵庫内の紙資料や衣類は 1 週間程度でカビが生えたと聞いている。実際に、カビはひどかった。ここでも、原爆の絵や写真を多く収蔵していることから、近年の水害の多発の事例を見ていると「ここは大丈夫」とは考えずに、災害は繰り返されるのだと想定して対策を立てるべきだろう。被災した時の手立て、例えば電源が落ちた時の手順、被害に遭った時の資料の避難のさせ方などはあらかじめ想定しておいた方がよい。 
次に、資料のデジタル化には功罪がある。大量の資料を検索したり、画面上で資料の画像を見ることを可能にするので、とても重要ではあるが、デジタル化にはお金がかかるだけでなく、機器のリプレイスなどの維持経費も少なくない。また、近世の古文書は 90 パーセント以上をコンピューターで読むことができるともいわれており、情報量を増やせば 100 パーセントに近づくことができるともいう研究者もいる。人間の労力が減ることが良いことかもしれないが、文書を読む人間の能力が失われることも深刻な問題として考えておくべきで、人間が資料と向き合うことに意味がある。匂いや音といった点など人間の感性を鍛える方向、人間がもともと持っている能力をさらに発展させる方向にイノベートすることついてもこの資料館では大事にしてもらいたいし、それができる資料館だと思う。

  
ファン・デル・ドゥース委員 
この感性をどう育てていくかという点は、広島平和記念資料館ならではのものであり、それがあるからこそ被爆の実相を伝えることができると考える。何か教育の面で広島大学の方でも協力できることがあれば、広島市立大学と協働し、ぜひ支援させていただきたい。 
また、レプリカにふれて興味を持った人が、広島に来て本物にであうという教育や、ピースツーリズムの活用も一つの手ではないか。

  
大井委員長

色々と資料館の方で固めていかなければならないことも多いと思うが、展示検討会議の際に原爆の絵は「実物展示」なのか、という議論があり、被爆瓦のような実物資料ではないが写真を補う情報を持つこの原爆の絵も「実物資料」としてとらえる、という議論があった。本館リニューアルに際し想定よりも多くの原爆の絵が展示されていたことに感銘を受けた。絵を通じてより立体的に見える効果もあり、レプリカの使い方についても同様にその手法について考えてもらいたい。

  
【議題(3)  本館展示の遺品等の入替え】

事務局

本館展示の遺品等の入替えについて、資料4と5により説明。 

リニューアル後、紙資料については既にレプリカに入れ替え済。原爆の絵については来週入替え予定、今後は6か月ごとに入れ替え予定。 
本館の「魂の叫び」と集合展示などは展示の大幅な入れ替えになるので、来年 2 月に休館日を設けて展示替えを一年ごとに行いたい。それは現在の展示照明の 50 ルクスを基準に考えると、一年ごとに資料を入れ替えることが望ましいということからこのような入れ替えを想定している。そのためには 1 週間の休館は当館の事情で難しいにしても最低でも 3 日間は休館にして入れ替えを行いたい。2 月は年間の来館者が最も少ない時期である。また、開館時の作業が難しいメンテナンス作業についてもこの時期にあわせて考えたい。 


大井委員長

ただ今の「本館展示の遺品等の入替え」に関する事務局の説明に対して、御質問・御意見等あればお願いしたい。   

 

久保田委員

先ほどの議論からしても資料の入れ替えは重要だと考える。展示室の暗さについても今の事務局の「50 ルクス」の説明で納得した。 
入替えをすることで多くの収蔵資料の活用が見込める点も望ましい。 
但し、3 日間で展示替えは厳しい日程ではないか、もう少し日程に余裕があるべきではないか。学芸員の負担は大きくないか。資料が大事というならその点も考えるべき。 
また、展示替えはいつ頃を予定しているのか。その周知方法はどうなっているのか。   

 

事務局

確かに 3 日間はぎりぎりの日程だが、初回の展示入替えは 3 日間でまずやってみる、という状態である。これまでも展示準備や清掃、メンテナンス上の不都合に目をつぶって平和のためにということで年末 2 日間だけの閉館で何とか対応してきた。もし不都合が出てくるようなら次は 4、5 日での作業を考えたい。 
日程は入館者が例年少ない 2 月終わり頃、最終週の平日を考えている。修学旅行の予約が一年くらい前から入ってくるので、最終的には市の判断を待つ必要があるが、一年前からの周知を考えたい。   

 

大井委員長

色々と段取りもあろうこととは思うが、ベストの状態の展示を入館者に見ていただくことを考えると、物理的なことも重要かもしれないが、この館の理念がおろそかにならないような展示の変更の時間の確保をしっかりしていただきたい。  

 

高妻委員

3 日間の資料入替えは厳しい日程ではないか。本来は逆で、最初に余裕を持った日程にすべきで、やってみて余裕があれば閉館日程を短縮するべきではないか。 
また、導線を見直せば、全館の閉館でなくとも半分または一部開館でもよいのではないか。   

 

大井委員長

部分的に入れ替えることは難しいのか。  

 

事務局

半分ずつの入替えだと年間で 2 日間を 2 回(合計年 4 回)の閉館となるが、一方が繁忙期に入れ替えることになるため、それなら一度にやった方が良いという考え方である。 
また、一部開館だとリニューアル展示の趣旨である本館と東館を一体の展示として被爆の実相を知ってもらうことができないため、閉館するなら全館閉館をしたい、ということでこのような提案をさせていただいている。こうしたことから、最小限の 3 日間にする代わりに全館閉めさせていただきたい、という考えである。 


大井委員長

この点については資料館の方でもう少し詰めて詳細に検討をしていただきたい。   


小泉委員

先ほど収蔵庫が地下にある問題性をご指摘いただいたように、それは私も素人ながらそうした問題もあるかなと思っていた。ただ、一方で、当面直ちに手を付けるものと中長期的に考えるべきもの、そして維持管理に責任を持つ者として財政的な問題などもあり、じっくり検討しなければならないこともあると思う。   

 

大井委員長

本館展示の遺品等の入替えということで、ひとまず皆さんのご意見をいただいたということで、引き続き事務局で調整をしていただく、ということでよろしいでしょうか。 
それでは時間も来たので、会議を閉会したい。

  
《館長挨拶》 


【事務局】

今後のスケジュールを説明  


《閉会》